描いた絵は見せて貰えなかった。

練習だし、たいしたことないからって言われて、最後の最後まで拒まれた。

昔なら見せてくれたのに。

でも、少し楽しげに描いてるように見えたから、やっぱり好きなんじゃないかなって思った。

少なくとも、書道の授業よりは生き生きしてる。

スウッと胸に何かがおさまる感じ。

なんだろ、ほっとしているのかもしれない。

だけど、夜一は学校で会っても何も変わらない。

やっぱり、話すこともない。

ただ、たまに先生に当てられて答える声を聞いたり、ひとりでお弁当を広げてるところを見かけるだけ。

思った通り、スラスラと答える姿を見て頭がいいんだなとか、チラリと見えた色鮮やかなお弁当を見て、クッキーお母さんは料理も上手なんだろうな、と連想させるくらい。

この前のお昼ご飯も美味しかったし。

とりあえず、いつ何されるか分かったもんじゃないって思って肝に銘じてはいる。

「いるり!」

二階の自動販売機でアップルティーを買った。

呼ばれた先には章吾がジャージ姿で廊下を歩いてた。

あたしを見て軽く手を振るから振り返した。

あたし、章吾に嘘をついているんだよな。

章吾に黙って男の子と会うということは浮気というものに入るのだろうか。絵を描いて貰うだけなのに。

そもそも不意打ちとは言え、夜一とキスをしたこと自体が浮気になるのだろうか。

だけど、章吾に言ったらきっと嫌な顔をする。

それだけはしたくない。

章吾に嫌われたくない。

だから、あたしは今日も章吾に言えない。

章吾の顔がまともに見られないくせに。

夜一にまた絵を描いて貰いたいという感情はおかしくも消えない。