夜一の家は、あたしの最寄駅から電車で2つ。そこから地下鉄に乗りかえてバスで5つ目の停留所。

閑静な住宅街。家と緑がバランスよく配置されてる。細い道路。

約束の時間は十一時で、あたしは奴を待っていた。

「本当に来たんだ」

振り返ると、夜一がいた。いつも足音立てずにふいに現れる。

幽霊みたいな奴かもしれない。意味もなく、足があるのか確認してしまった。

「迎えに来たくせに言う科白かよ?」

「うん。半信半疑だったから」

そう言うと、くるりと体を反転させるから慌てて後ろを着いて行った。

夜一の家に行く途中、章吾からおはようってメールがきた。

玄関には、小さなスニーカー。かかとが低いパンプス。黒のローファー。仲良さそうに並んでる。

部屋の中に通される。ニ階のいちばん奥だった。

机にベッド、本棚。6畳くらいのスペース、そこに陽が射しこんでた。

「何か飲む?」

「うん。なんでも」

一旦、締められたドアを見ながら、引っ越してからの夜一はずっとここにいたのかと思うと、とても不思議だった。

夜一は変わった。

だけど、変わったのは夜一だけじゃなかった。

住む家が変わった。順を追うように、周りも変わった。

なら、変わることはとても自然なことで、環境にあわせて性転換してしまう魚みたいに当たり前のことなのかもしれない。

逆に、あたしがまた夜一に絵を描いて欲しいと思うことが、間違っているのかとも思えてしまう。