「……そうだね、変わるかもしれない。 ……でも、大樹は友達。 今までもそうだし、これから先も友達のまま。 大切な友達と、そんな中途半端な気持ちのまま付き合うのは、絶対にいやだ」

「……」



一気にそう言い終えると、なんだか身体の奥底から気持ちが溢れそうになって、鼻の奥がツンと熱くなった。


奈々子は、暫くあたしの顔をジッと見つめていたけど「はぁー」と大きく溜息を付きながら空を仰いだ。



「……大樹なら、ユイの気持ちちゃんとわかってくれると思う」

「……うん」

「えらいね、ユイは」

「え?」

「人の意見に流されない。 ちゃんと自分の考えを持ってたんだ……ちょっと感動しちゃったじゃん」



空に顔を向けたまま、奈々子はチラリとこっちを見て笑った。

そして、少しその視線を泳がせた奈々子が岩を登りきった大樹に視線を向けながら言った。



「…あたしさぁー… 実はアイツの事好きなんだよね」




……奈々子

やっと言ってくれた……。



そう言って、頬をピンク色に染めた奈々子。


あたしは嬉しくて、思わずキュッと結んでいた口元を緩めた。




「うん、知ってる」

「へッ!? し、しし…知ってるって……」



あからさまに動揺して、バッと身体を起こした奈々子は、しどろもどろになりながらあたしに詰め寄ってきた。



「気づかないわけないでしょ? ずっと知ってたよ。 気づいてないのは、奈々子と大樹ぐらいだよ」


「そ……そんなぁ……」




プクク。

奈々子ってば、真っ赤を通りこして顔から湯気が出そうだよ? 




あたし達はこの合宿中に、きちんと大樹に気持ちを伝える約束をしたんだ。






いつの間にか、太陽が木の陰に隠れてしまって

見上げた空は茜色に染まっていた。


少しだけ気温を落とした山間の風が
汗びっしょりになった大樹の身体をふわりと撫でて
あたしと奈々子の髪を揺らした。





蝉達は歌うのをやめ




変わりにヒグラシの輪唱が
『チキチキチキ』と耳をくすぐった。


少しだけ切ない気持ちを連れて……