「うん……」


奈々子は、前を見つめたままあたしの言葉に耳を傾けた。



その視線の先は……




「あたし、大樹にちゃんと返事するよ……。このままじゃいけないってわかってるもん」

「……うん。 そっか…そうだね。 大樹、喜ぶよ……ほんと、よかった」



そう言った奈々子の表情はわからなかった。

でも……



「ごめん、奈々子……あたし、奈々子の言うように大樹と付き合う事、出来そうに……ない」

「……え?」



あたしのその言葉で、驚いたように顔を上げた奈々子は、大きな瞳をさらに見開いて信じられない」と言うように瞬きをするのも忘れているようだった。


「……ど…ういう…事?」


搾り出すように言った奈々子の声は、蝉の鳴き声に負けてしまいそうで
なんとかあたしの耳に届いた。



「大樹の事、好きだよ? でもそれは恋じゃないと思うの。 すごく大事だし…必要な存在だけど……だけど違うと思う」

「……それって、好きって事でしょ?」

「違うよ。 好きだけどそれは友達としてだもん。 それはわかりきってる。これからもその気持ちはかわらないって事も……」


奈々子の大きな瞳の中に、あたしの顔が映ってる。
その瞳が、時々揺らいで、また真っ直ぐにあたしをとらえた。


「わかんないじゃん、気持ちってかわるかもしれないじゃんッ」


あたしを説得するみたいに、奈々子は身を乗り出してあたしの顔を覗きこんだ。



どうして?


どうして、そんなに必死になるの?



奈々子……