そんな嫌がるあたしを奈々子は引きずるようにして、外へと連れ出した。

あたし達は、ロッククライミングに参加するために旅館から少し離れたところまで来ていた。

そこは、ゴツゴツとした岩肌がそのまま露出しているような場所だった。


「……ここ、こんなの絶対無理」


まるでこちらに迫ってくるような圧迫感がある。
そんな険しい岩の群れにあたしはもう涙目。


イヤだって言ったのに…!

大樹達が勝手に決めちゃったんだッ

『ユイは俺らがやるの見てればいいよ』
って。

でもでも!

全員参加型じゃんッ!!!

これが、合宿の目的なら…そんなの得なくていいよぉ




隣りで身体にたくさんの安全器具をつけていた大樹は、汗で張り付いたTシャツを引っ張りながら、あたしの顔を覗き込んでどこかを指差した。


「だぁいじょうぶだよ。 ほら、女子はあっちあっち」



「え?」と大樹の指す先を追うと、そこには命知らずの女子達が数名集まっていた。
小柄の女性インストラクターもいて、なにやら上を見上げたりしながら説明をしているようだった。

それは、今あたしの目の前にあるような岩ではなく、三メートル程の物で初心者向けらしかった。


「……」

「な? あのくらいなら大丈夫だろ? まぁ、無理する必要はないけど……やってみると結構ハマるぜ?」


そう言って、大樹は少し吊り上った目を細めた。


「……ん」


その笑顔が眩しくて、あたしは視線を落としながら頷いて見せた。


「おしッ! んじゃあ後で合流なッ。 奈々子、お前も無茶すんなよ。 翔平、行こうぜ」

「……って無茶はアンタでしょーが。 気をつけてよねぇ」

「わはは。 奈々子に心配されるよーじゃ、俺もまだまだだなぁ」


大樹は、そう言って背を向けたまま片手を挙げてそれをヒラヒラと振った。



「……」

「……」



取り残されたあたし達は暫く無言のまま、その場に立ち尽くしていた。



「……ユイ…無理にやんなくていいからね?」

「奈々子こそ……」



男の子達がインストラクターに先導されながら次々に岩肌を登っていく。



……絶対、無理。