山道をひたすら登り、そして下り。

また登ってようやく目的地にたどり着いた。



「合宿って言うから、てっきりテントか……コテージくらいだと思ってた」

「うん……」



あたしと奈々子は、重たい荷物を肩にかけながら、ポカンと口を開けたまま呆気にとられていた。


それにしてもすごいッ!


見上げた先には、少し古い感じはあるが品のある三階建ての大きな旅館。
あちこちに竹の素材を使っていて、「和」を貴重にした日本の伝統が漂う建物。

「高級老舗旅館」と言う単語が一番しっくりくるだろう。


でも、こんな山奥にあるんだから、きっと常連さんで成り立っているような旅館で知る人ぞ知るって感じ。





とにかく!


こんな素敵な情緒漂う旅館に一泊出来るなんて、うちの学校も捨てたもんじゃない!



「空気も澄んでる~」



奈々子は、鞄を地面に放り投げて両手あげてうーんと伸びをした。

あたしもそれにならって、空を見上げる。


ここだけぽっかり穴が開いたみたいな
はさみで切り取ったような
青く澄んだ空が見えた。



白い雲が、まるで写真のようにそこに留まっている。
その中に吸い込まれそあな感覚になってしまう。


あたし達の間を駆け抜ける少し冷たい風は、深い緑の匂いも連れて来てくれた。



木々の擦れる音と、どこからか川を流れる水の音。

たくさんの「涼」が詰まってる。

周りを囲う木々達からは、蝉達の合唱が耳をくすぐった。



ミーンミンミーン……



「ふぁ~……癒される…」


目を閉じて、この空気を感じていたあたし達。

――と、その時。





ポカンッ!




何かで頭を思い切り弾かれた。