『…………俺、もう思い残す事なんもない』


ヒロはそう言うと、あたしの目を覗き込んだ。


「……なにも?」

『うん。 だって母さんにも会えた。……俺の家もわかったし、事故った場所も知ってその瞬間も思い出した』



窓から差し込む月明かりにその綺麗な顔を照らしたヒロは、一つずつ指折りをして見せた。

あたしはベッドに座ったまま、そんなヒロを見つめた。



『だから、俺の体も見つかったってわけでしょ? 契約はこれで解消になるわけ』



口角をキュッと上げて、ヒロはあたしから視線を逸らした。



「……契約解消……」



そう言って、あたしはヒロに出会った夜を思い出していた。




あれは、今夜みたいに綺麗な満月の夜だった。


淡い月の光が、まっすぐにあたしの部屋に差し込んでいた。


他の音は何もしない。


静寂な夜。







ヒロはあの日、確かに言ったんだ。



――体が見つかるまででいいから――

――ユイの前から消えるから――





そっか。

そうなんだよね。
それは、はじめから決まってた事。

あたし達の契約の条件。




でも、消えるって何?


…そりゃ、ユーレイだし?消えてくれなきゃ困るんだけど。



どこへ行っちゃうの?

……黄泉の国でしょ?
ヒロって、みんなからも慕われてたみたいだし。
きっと天国へ行けると思う。

だから、心配なんていらないんだよ。





……でも
…………そしたら

消えちゃったら……ヒロに会えなくなるの?