今すぐぎゅっと、だきしめて。



それから1週間なんてあっという間で。



凍える寒さの中。
あたしは、セーターのポケットに手を突っ込んだ。



「……寒すぎッ」



この広い試験会場には、電気ストーブが置かれてはいたが。


あたしの席には程遠く。
ポケットの中のカイロでなんとか震える手を温めていた。



続々と集まる受験生。

みんな、参考書を読んだりノートを見たり。
ipotを聞きながら神妙な面持ち。


それを見てるだけで、緊張してきちゃって。
カタカタと小刻みに体が震えてしまう。


寒さのせいだけじゃないな……。




あたしはペンケースの中から、小さな紙を取り出した。



開くと、かわいいスイーツの柄が見えた。
それを鼻先につけると、ほのかに香りがする。



「……甘い」



蜂蜜の香りだ。



この会場まで、奈々子と大樹が一緒について来てくれた。

きっと今も、近くのカフェであたしが終わるのを待ってくれているだろう。




親友の優しさに、とても心強い気持ちになる。




その紙には




”終わったら駅前のカフェで美味しいケーキ食べよ!”


って奈々子の丸い字と。



”名前、ちゃんと書けよ”



って、流れるような大樹の字。




「ふふ。ケーキ、おごりかな?
大樹ー、もっと気の利いたセリフないの」


ってひとり、含み笑いをしてしまった。




ありがとう。

リラックスできそう。



「では――…、はじめてください」



試験開始の合図。

あたしは大きく息を吸い込んで、答案用紙をめくった。