今すぐぎゅっと、だきしめて。



ドクン ドクン ドクン…





「安達?」



ヒロの事を知らない水谷が、明らかに様子のおかしいあたしの顔を覗き込む。


だけど、あたしは自分の足元に視線を落としたまま息をひそめていた。





どうする?


話しかけるべき?




でも……なんて?


『久しぶり、元気?』なんて、そんな事きけるわけない。


だって

きっと、まだ傷は癒えてない。






ちぃちゃんと、別れてしまったこと

引きずっているかもしれないじゃん。




ドクン

ドクン



賑やかな音楽が店内には流れている。

だけど、今のあたしにはヒロの足音と、その服のこすれる音しか聞こえなくて。




あとは、うるさいくらいの心臓の音だ。







「……あれ、今通り過ぎたのって……前に学祭に来てた人だろ? お前知り合いじゃなかったっけ?」


「……」




水谷のバカ。



ヒロに聞こえちゃう。






あたしは、何も言わず通り過ぎていったヒロの姿を見ることもできなかった。



見たら、きっと……



この視界を濁す涙がこぼれてしまうから……。