今すぐぎゅっと、だきしめて。


背の高い水谷に真上から見下ろされ、息をのむ。

水谷は、あたしとちゃんと向き合うと、腕組をすると身を屈めて首を傾げて見せた。



「なにそんなに難しく考えてんだよ? 
俺は自分の気持ちを優先しただけ。 安達に他に好きなヤツがいようが関係ないんだけど。 だって俺が好きなんだもん。 簡単だよ」



「……」




なにそれ

矛盾しすぎ……。





だけど、そう思いながらも水谷の、その自分中心の発言が胸の奥に染み込んでいく気がして。


ハッとした。





『誰を好きか、関係ない』


簡単な事……。






いつの間にか、ギュッと手が握られていて。
見上げた先には、自信たっぷりのいつもの水谷がいた。



「それで? 俺と抜けるの?」

「……」



こうして近くで見ると、水谷って意外とかっこいい顔してたんだ。

少し吊り上った大きな目。
まるで猫みたい。



…………。


その瞳の呪縛にかかってしまったみたいに、あたしは身動きもとれずにいた。

ジッと水谷を見上げていると、視界に入ってきた高校生くらいの男の人が何かに気づいて手をふった。



ここが、カラオケ店の通路で、けっこう人も通るって事すっかり忘れてて。
彼があたし達を通り過ぎながら、嬉しそうに笑った。






「……あ、いたいた! やっと来た、みんな待ってるぞぉ 永瀬」





……え、ナガセ?




我にかえり、ガバッと振り返る。



そこには……。