思わず彼の名を口にした、その時だった。



「――お待たせ!」



「……」

「……っ」



甘い香りを漂わせ、ちぃちゃんがケーキが乗ったプレートを持って現れた。


その声に弾かれるように、あたしは身を引く。



「……ちぃちゃ……」



ドクンって心臓が波打つ。
背中にツーっと冷たい汗が伝う。

やだ……見られてた?


どうしよう……あたし。

あたし……今、なにを……。

恐くて思わずキュッと目を閉じた。


――だけど。



「おー、言ってくれたら手伝いに行ったのに」

「ありがと。 でも、本当に大丈夫よ。 ほら、すっごく美味しそうでしょ?」


ヒロは、何もなかったかのように立ち上がると、ちぃちゃんの手からプレートを受け取った。



ビ、ビックリした……。

あのままヒロとキスしちゃうかと思った。


変わらないちぃちゃん。
その事に、やっと呼吸ができたみたいに、あたしは「はぁ」と息をついた。


でも。



顔を上げると、ちぃちゃんがあたしの顔をジッと見てた。



「……っ……」

「…………」


見てないはずがなかったんだ。

だって、すぐそばまで来てたんだもん。


ヒロは“ちぃちゃんの”なのに……。


自分のした事に、体の震えが止まらなかった。