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どうやってあのお店を出たんだろう……。
覚えているのは、天使のような極上の笑みを浮かべる裕貴さんの顔。


彼は、一体あたしに何を伝えたかったんだろう。



“真尋はユイちゃんのことだけ覚えていない”



それだけを伝えたかったとは思えない。
でも、それ以上の事は言わなかった。



「……当たり前だよ」



ポツリと呟いた言葉も、誰にも届かずに街を染めるオレンジの光が溶かしてしまった。



だって。

ヒロとバスケで知り合ったなんて嘘だもん。


本当は、この夏に初めて会ったんだもん。
そう……あの寝苦しい夜。

ユーレイのヒロに。



だけど、そんな事いえるわけないし。
きっと、ヒロにとって知らなくていい事実。

今となっては。

それが『事実』かすらわからない。


ただ……。

あたしの中に残る、ヒロへの『想い』だけが。
嘘じゃないよって語ってる。


それだけなの。