今まで流れていた時間が止まったかと思った。


裕貴さんの瞳の中に
ポカンと口を開けたあたし。


まるで得たいの知れない「ナニカ」に、後ろへ引っ張られる感覚。



目眩がした。




「……え、そ、それって、あたしとちぃちゃんがお隣だから……」

「ごまかさなくていいよ」



あたしの言葉をピシャリと遮る裕貴さん。


「どうも様子がおかしいんだよね。 大樹も、奈々子ちゃんも。それに君もそう」


「……」


「真尋の意識が戻ったあの日。 大樹のやつ血相変えて俺のとこに来たかと思ったら、『真尋について教えろ』なんて言う。 そんで病院行ったら君が居た。 奈々子ちゃんに聞いても、『あたしにはよくわからない』って話をする事を拒んだ」



ドクンドクンって、耳元で音がする。
それが、裕貴さんの言葉を邪魔する。


視界が揺れるくらいの鼓動で、喉はカラカラ。



「……」


「もっと変なのは、真尋だよ」



裕貴さんは、小さく息をつくと、あたしの手をそっと離した。
そしてその手は、うつむいていたあたしの頭をポンっと乗った。



「ユイちゃん、真尋の実家に行ったんだってね? その時、バスケで知り合ったって。でも真尋は、そこだけ……ユイちゃんのことだけ覚えてないって言った」 


「……」



あたしだけ。


覚えてない……。



あたしの事だけ。



――……ズキ


裕貴さんに見つめられてるからだけじゃない。


苦しくて苦しくて……喉の奥が潰れちゃいそうに痛くて。





心が、悲鳴を上げた。