風にのって
ふわりと甘い香りが鼻をかすめた。



これだ……。

この香り。


いつも大事な時に感じたのは、この香りなんだ。



あたしは、ちいちゃんの胸に抱えられていた花束から目がそらせなくなってしまった。


「…………」


なんか、クラクラする……。
なんだ?
この感じ……。



「じゃ、俺帰るから……お前、大丈夫か?」

「……う、うん」



甘い香りに目眩を起こしそうになった。
だけど、なんとか引き戻してくれたのは大樹の言葉だった。


顔を上げると、大樹があたしの事をじっと見つめていて。
思わず、パッと視線を逸らしてしまった。



「わたし達も今からちょっと行くところがあるから……。あ、そうだ。ユイちゃん、あとでうちに来ない?」

「え?」



花束を抱えなおすと、ちぃちゃんは穏やかに微笑んだ。

その仕草で、長いストレートの髪がふわりと揺れる。



「お母さんがクッキー焼いたの。 久しぶりに、どお?」



そっか。

前にも遊びにきてっていわれてたんだ。

なんか色々ありすぎて、あれからちぃちゃんにすら会わなかったから。


「うん、行く行くっ。何時くらいに帰ってくるの?」

「ふふ。 4時くらいには戻るから、それくらいに来てくれる?」

「わかったーっ」


あたしはちぃちゃんに……ついでに大樹の兄貴に手をふった。




「……あのバカ兄貴。 今日は部活じゃなかったのかよ」

「え?」