今すぐぎゅっと、だきしめて。



あたしは、オレンジ色にキラキラしてるゼリーを手に取った。


「これって、あの駅前のカフェのなんだよ?」

「駅前って?」

「え? えーっと……なんだっけ」


しまった。

言い出したのはいいものの、動揺と変に緊張したせいでそのお店の名前、すっかり忘れてしまった。

なんだっけ……
うーんと……


「もしかして……“ジジ”ってとこ?」

「あ、そうそう! あのオシャレなお店! ……って大樹が知ってるなんて以外~」


そうだ。

“”CafeANDBar JIJI”

あそこはチョコレートが本当に美味しいんだけど。
あたしは、お母さんがたまに買ってきてくれるこのゼリーが大好きなんだ。


「んー、俺じゃなくて……最近兄貴がよく行くらしいから」

「へぇ、お兄さんが?」

「そう。 ま、詳しくは知らないけど……」

「彼女かな?」

「どうかな。 けど、女らしい」

「まじーッ? やっぱり高校生は大人だね!」


きゃーっとはしゃぐあたしを見て、大樹が目を細めたのがわかった。


「なんだよ、ユイは彼氏欲しいわけ?」

「そりゃ欲しいよー。 憧れだもん」

「ふーん」



そう言って、大樹はオレンジと淡いレモン色のゼリーを口に運んだ。



って。
…………やば。




あたし、何無神経にそんな話持ち出してんのよ。




大樹はあたしに『好きだ』と言ってくれた。
なのに、あたしは…………


その時、不意に彼の顔が浮かんだ。



優しくて、少しだけ意地悪な……ヒロ。
哀しく笑う、その顔が忘れられない。



心から、離れない。




―――……だから



「お。 マジうま!」



だから例え、大好きな幼馴染を傷つけても
あたしの気持ちは変わらない。





「……大樹」