あたしに背をむけたままの和田君。


……でも、何かがおかしい。


和田君の顔は暗闇で見えないけど、さっきまでの彼とは何かが違っていた。



「…わ…和田く……」



身をよじりながら、彼の名前を呼ぶとピクリとその肩が揺れて、バッと何かに弾かれるように掴まれていた手が離れた。



和田君は自分の手をジッと見つめて、それからあたしを見た。



ドクン……



真っ黒な前髪の間から、切れ長の瞳が現れた。
その中に、不安の色が見え隠れする。



……?



和田君は、少しだけ震えている自分の手を空いている手で押さえるように持つと
あたしから一歩、また一歩距離をとった。



「和田君? さっきからどうしたの?」

「…………」



彼のその顔をもっと見ようと近づくと、和田君は薄い唇を開いた。



「安達は、力があり過ぎる。 俺は…憑依体質だから、一緒にいると俺の体に色んなのが入って来ようとするんだよ。 安達は、俺が一人で制御してたのを一気に取り払ってしまったみたいだ」


「……ちょ…ヒョウイって……い、い…いろんなのってなによ? こ、怖がらせようったってダメなんだからねッ」



し、信じらんないッ!

和田君ってば、そんな真面目な顔して脅かし役だったなんて!


あたしは、暗闇に溶けてしまいそうな彼を追い越して、大股で歩き出した。



卑怯だよッ
同じ、ペアの人を脅かし役にするなんて、榎本の奴!



ザッザッ――と静寂な森の中にあたしの足音だけが無情に響く。



背後に、和田君の気配はあるのに後を着いてこない。




「…………」




あーー! もうッ!!!