Pathological love


震える手をカウンターの下に隠して、私は話し始めた。


「今日は本当にありがとうございました。秋山さんが来てくれなかったら、どうなっていた事か。考えただけでゾッとします。私、最近ついてなくて………ご迷惑をお掛けしました。」


丁寧に頭を下げると、明るい声が返ってきた。


「運が悪い時は誰だってありますよ。でも、俺が間に合ったんだし、運は尽きてないでしょ?」


「フフッ…それもそうですね!この前も危ない目に合ったんですけど、ギリギリで助けられました。」


「確かにあなたはガードが固そうに見えますが、案外無防備ですからね。」


「えっ?」


秋山さんは、グッと近くに寄って少し上から私を見下ろした。


「ほら………こんなに近くに寄っても、逃げようとさえしない。いつでもキスが狙える距離なのに…………。」


「っ!!」


形のいい唇が、至近距離で妖しげに笑んだ。


「フフッ…冗談ですよ。それより本題に入りましょう。私と………試してみますか?恋人関係。」


「えっ?」


唐突な申し出に固まっていると、オーナーの綾野さんがカクテルを運んで来た。


「お待たせしました。秋山様、モヒートでございます。水川様はこちらのキールを。白ワインにカシスが入っております。」


「あっ…ありがとうございます。」


「キールか………いいね。」


秋山さんはモヒートを掲げて私に目を合わせると、グラスを軽くぶつけた。

透明感のある良い音が、店内に優しく響いた。


「最高のめぐり逢いに………乾杯。」