水滴の滴ったグラスを一気に飲み干し、カウンターに置くと続け様にお代わりを頼む。
いつもはこんな飲み方をしていたら、オーナーの綾野さんがタイミングを見計らって止めてくれるけれど、今日は姿が見えない。
それをいい事に、私はとにかく酔う為にグラスを口に運んでいた。
そうでもしないと、彼の事ばかり考えてしまって、泣き出しそうになる。
これじゃあ昔失恋した時と一緒で、何の進歩もしていない。
そんな自分は心底嫌気がさすし、恥ずかしくて、情けなかった。
そう思っていても、気がつくと目の前に置かれたカクテルに、私はまた手を伸ばしていた。
「飲み過ぎですよ?」
引き寄せたグラスを止められて、私は漸く顔を上にもたげた。
「………………黒木…先生?」
見上げた人の顔は、酷く心配そうに歪んでいる。
「一体どうしたんですか?予約の日になっても来ないし、連絡もさっぱり着かないし、心配していたんですよ?」
「………すいません………すっぽかしました。でも……もう私には必要なくなったんです。」
「必要なくなった?それはどうゆう事ですか?」
「もう、いいですから………放っといてください。私…もう、帰りますから………ー」
近くのバックを持って立ち上がろうとした時だった。
私の視界は大きく揺れて、斜め後ろに倒れ掛かる。
「…えっ………うわっ…ー」
何かに掴まろうとした手は宙を掻いてもがくと、寸でのところで力強い腕に支えられた。
「こんな状態じゃ一人で帰せません。私の処へ一旦おいでなさい………。」
揺れる視界の中、困った様な苦しそうな笑顔が見えて、私は意識を手放した。



