「………帰ってきてたの?」


懐かしい声が俺の背中に掛けられる。

反射的にビクッと震えた身体でゆっくりと振り向くと、目の前にはいくらか年を取った母親が立っていた。

ファッションブランドを立ち上げただけあって、いつ見ても上質な服を隙無くスマートに着こなしている。


「何年ぶりかしら………あなたが家に寄り付くなんて珍しいじゃない。」


相変わらずクールな表情と起伏の無い声が、何を考えているのか読めずに俺の心臓を突き刺す。

小さい頃はあんなに笑い掛けてくれたのに、その顔がちらつく度に、現実との大きな差にショックを受けた。

どうせ突き放すなら、最初から触れないでいて欲しかった。


「資料…取りに来ただけ………。」


「デザイン事務所やってるそうじゃない。アメリカで成功したからって、日本で受け入れられると思ったら大間違いよ?一時的な話題にはなるかもしれないけれど、それなりの実績を積まないと継続して仕事はこないわ。だからしっー」


「そんな事!!言われなくたって分かってる!!俺の事なんて昔から興味ないだろっ?!今更なんだよっ?!」


「………………………そうね………そうだったわね。余計な事を言って悪かったわ。今度来る時は私の居ない時にしなさい。」


自分で煽っておきながら、予想通りの言葉にダメージを食らう。

俺は息苦しくて何も言わず玄関から飛び出した。

門を通り抜け、車に乗り俺は少しでも早くここから離れたくて街まで車を飛ばした。