Pathological love


芦屋デザイン事務所とのコンペを勝ち取ったその夜、何処から聞き付けたのか令子は高級なボルドーワインとホールのケーキをお祝いにと言って買って来た。

少しずつ呂律が回らなくなって、ぽやんとした眠そうな彼女を見るのは結構好きだ。

素面のクールなイメージとは違って、隙だらけの甘い雰囲気を漂わせる。

思わず手を出しそうな煽りに、いつも耐える羽目になる。

俺の中では既に、最初会った時に感じたクールな印象は無くなっていた。

最近の彼女は随分と物腰が柔らかくなって、たまに見せる包み込む様な笑顔は俺を安心させていた。

こんな女(ひと)は初めてだ。

最近は同じベットで寝る事にも慣れ始めて、時折聞こえる彼女の寝息や、小さな寝言を子守唄に俺は安眠する。


「………今日はありがとう。凄く嬉しかった。これからも…ずっと………俺と…」


途中まで言って言葉に詰まる。

その言葉を疑っている俺が使っていいものだろうか。

眠っている彼女の顔を見ながら俺は口を閉ざした。

どうしても自信が無かった。

過去に捨てられた俺は、これからもずっとこの呪縛からは逃れられないのか?

いつか彼女も俺を………そう考えると何よりも恐ろしくて、彼女に伸ばしかけた手を握って背を向けた。


「情けねぇ…………俺は、いつまでビビってんだ。」