赤く染まる耳の端を見ると、母性にも似た愛しさが込み上げてくる。
あなたが欲しがっているモノを、私が全部あげれたらいいのに。
「………本当に手が掛かる奴。」
呆れたように頭をくしゃっと掻くと、また私に視線を戻した。
真剣な眼差しで少しずつ近づいてくる彼に、私はねだる様に少し口を開けて目を閉じる。
冷たい氷が水と共に口の中へと流れて溢れた。
「……んん………。」
溢れる滴もお構い無しに冷たい唇が私に触れると、ピリッとした鈍い痛みが走った。
そのまま押し付けられる様に唇が塞がれる。
目眩がするほどの口づけの最中、口の中の氷は行ったり来たりを繰り返したまま、少しづつ小さくなっていく。
(あぁ………もう少しで………無くなる。)
苦しくて少し荒くなる吐息だけが耳に聞こえて、惜しむ様に薄目を開けると、真っ赤な顔の連理が、目の前いっぱいに広がっていた。
「もう………いいだろ………。」
彼は恥ずかしそうに身体を離すと、そのままキッチンに向かって行った。
キスの後の余韻を楽しめない、すれ違う二人の関係。
それは時に歯痒くて、切なくて、特別で心地いい。
「好きって言えたらいいのに………。」
その後、連理は文句を言いながらも、氷がいっぱい入った冷麺を作ってくれた。
何だかんだで、世話を焼いてくれる彼は本当に優しい。
母親に拒絶されても、こんな風に育ったのは、周りの人のお陰なんだろう。
ふと奏也さんの顔が浮かんだ。
不機嫌そうに無表情の顔…だけど、連理を心配する顔は真剣だった。
独りぼっちの時、奏也さんが一緒にご飯を食べてくれたから、連理は優しさを覚えられたのかも知れない。
私も彼が幸せになれる何かを与えられる人になりたい。
彼を好きと言えない分、私は態度で表そう。
私はまだ鎮まらない鼓動を感じながら、眠れない夜を明かした。



