私の中で静かに何かが燃え始めていた。
消そうとしても消えない火。
それだけは言ってはいけないと、シグナルが鳴っているのに、私の悪辣な口は止まらない。
「………………あなたなんて必要ないもの。好きにすればいいじゃないっ!!」
今度は確実に連理の表情が崩れた。
何かの痛みに耐えるかの様な、苦しそうな顔は、一度瞬きすると、また元の顔に戻っていた。
「じゃあ、好きにさせてもらう。」
(ダメだ………引き留めなくちゃ!このまま別れたら、もう………でも……)
去っていく彼の背中を見送りながら、泣き出したくなる衝動を堪える。
滲む視界を振り切って、私は反対の方向に歩き出した。
「何で………何であんな事、言っちゃうの…バカだ………私………。」
何度悔やんでも、後悔先に立たずとはこの事だ。
友の言う通り、頭が良いくせに学習能力の無い私は、いつも恋愛に関しては、貧乏くじを引く。
いや、引いてるんじゃない。
自らそれを選んでいるんだ。
ダメなものに惹かれるのは血筋だろうか………。
大事な時に二の足を踏む、こんな自分では一生幸せになんてなれやしない。
「そんなにプライドが大事?………フフッ…………バカすぎて笑える…………。」
廊下の曲がり角を曲がって、私はその場にしゃがみ込んだ。
ここなら、流れ落ちる涙を隠す必要ない。
暫くの間、私は人知れずうずくまって、泣き続けた。



