何かに取り憑かれたように、曲に合わせて揺れる男女。
所々で、生まれては消える偽物の恋や愛。
それに溺れる者もいれば、上手く利用する者もいる。
騙し、騙され、駆け引き、押したり引いたり………。
今日もまた俺は、そんな偽物の愛を補充しにさ迷う。
「秋山さん。この後、………どうしますか?」
絵に描いたような清楚系の女が、ほんのり頬を赤らめながら、意味深な上目遣いで俺を見た。
さっき知り合ったばかりだとゆうのに、もう戦闘態勢の様だ。
いつもなら受けている誘いも、今日は何故か気分が乗らない。
そのつもりで、来ている筈だったのに……。
どうするか考えていると、その女は腕に胸をさりげなく押し当ててきた。
「秋山さん?私じゃダメですかぁ?」
煮え切らない俺に、女の声はより一層甘くなった。
今にも胸焼けがしそうだ。
「悪いけど先約があるんだ。また今度二人きりで会わない?静かな処で、ゆっくり。」
女の耳元に囁くと、ニッコリ笑って名刺を一枚、俺の胸ポケットに忍び込ませた。
「長くは待たせないでね?」
胸元に抱きつくように耳打ちすると、その女は去って行った。
「はぁ~……。」
どっと疲れた俺は、カウンターバーにドリンクを取りに行った。
「モヒート。」
「かしこまりました。」
愛想の悪いバーテンが、ぶっきら棒にコースターの上にドリンクを置いた。
いつも通りで、腹も立たない。
俺の周りは相変わらずで、うんざりするほど何も変わってやしない。



