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今日から寮暮らしをするために田舎から出てて来た

しかし、かなりの方向音痴である酒井ヒヨリはさっきから同じ住宅街の十字路をグルグルと回っていた

道を聞きたくてもしゃべることの出来ないヒヨリはどうすることも出来ずにいた


(どうしよう、さっきからずっと同じところを言ったりきたりしてる気がする・・・

速く行かないと始業式に間に合わなくなっちゃうよ)


不安でいっぱいになったヒヨリの眼には涙が浮かんでいた

もらった地図をグルグル回しながら見ていると、後ろから声がかかった


「おねぇーちゃん、こんなところで何してるの?迷子?おじさんが連れて行ってあげようか」


振り向くと、30代後半ぐらいのアロハシャツに坊主・刺青の男がニヤニヤしながら腕をつかんでいた

怖かったけど、声が出ないので仕方ない


オロオロしていると後ろからまた別の声が聞こえた


「おじさん、俺たちの連れになんか用?」


「お前はすぐに迷子になるんだから離れるなって言っただろ」


声は二つで、でもどちらも聞き覚えはない

当然だ。だってヒヨリはまだこの地に足を踏み入れてからまだほんの数時間しかたっていないし

この地に知り合いなんて一人もいないのだから


頭だけで後ろを振り返るとやっぱり見ず知らずの2人



「なんだてめぇら!邪魔すんじゃね!!」


男に強引に腕を引かれて転びそうになったとき、黒髪の長身の男の子が男に跳び蹴りをかました

驚いて固まっていると、もう一人の金髪の男の子がそっとヒヨリを背中に隠してくれた

しばらくすると、男は覚えてろよと漫画みたいに捨て台詞を残して逃げていった

ヒヨリは緊張と恐怖から開放されたことにより体からチカラが抜けてしゃがみこんでしまった


「大丈夫?」


金髪の男の子が声をかけてくれるが、頷くことしかできなかった

すると、黒髪の男が近づいてきてヒヨリの腕を乱暴に掴むと無理やり立ち上がらせた


「ちょっと朋!」


「いつまでも座ってんじゃねぇ。それに、助けてもらっておいてお礼もなしかよ」


言われて、ヒヨリは慌てて頭を下げた

しかし、黒髪の男はしゃべらないヒヨリにイラついた顔をしてそのまま真っ直ぐ歩いていってしまった


「ごめんね、あいつ誰にでもあんなだから気にしないで。

あ!そういえばまだ自己紹介してなかったね。僕は服部 淳平。さっきのは永井 朋樹。君の名前は?」


ヒヨリは制服のポケットから紙とペンを出すと

『酒井ヒヨリです。さっきは助けていただいてありがとうございました。御礼が遅くなってすみません』

と書いた

淳平と名乗った男の子は、それを見ると驚いた顔をした


「もしかして君、声が?」


淳平の問いに素直に頷くと、淳平は悲しそうな顔をしながらそっかと言った


「ごめんね。」


何に謝られたのかわからないヒヨリが首をかしげると、淳平は笑った

またも何に対して笑われているのか分からず少しだけ口を突き出していると、淳平が突然時計を見て叫んだ


「あーっ!!やっばい!君も早く行くよ、遅刻しちゃう!!」


ヒヨリは淳平に腕を引かれながら走って行った