Crazy and mad

歩いて10分ほどで着いた私たちの“家”、児童養護施設、友児院。ここでは、様々な事情で家では生活出来ない子供たちが暮らしている。私と優もその中の1人だ。
下駄箱の前で靴を脱いでいると、私の名前を呼ぶ声が聞えた。ずっと聞きたかった声が。
「涼香、おかえり。」
振り向くとそこには、大谷悠太郎がいた。私の脳裏に度々よぎるあの顔の持ち主だ。コイツに会う時、いつも心の何処かを擽られているような、不思議な感覚を覚える。
(そうか…今日は久々の夜勤だ)
高校生は基本的に帰るのが遅いので夜勤者以外の職員にはあまり会う事がないのだ。だから、会うのは久しぶりの事になる。
「ただいま…」
無愛想になってしまう。喜んでいる自分に嫌気がさしてしまいそうなのだ。
“会いたいけど会いたくなかった”それが今この男に対する率直な気持ちだ。会う度さらに気持ちが強くなる。自分でよくわかっている。そう、私はこの男が好きだ。どうしようもないくらいに…
この気持ちを再確認した所で、後にやって来る優への罪悪感。そうして私はもっと自分が嫌いになる。いつもこの無限ループなのだ。
私は、それ以上何も言わずにまっすぐ部屋に帰る。
部屋のドアを閉めてつぶやいた。
「ツラいならやめればいいのにね…」