「駄目だよ。星を採ったら目印が無くなっちゃう。家に帰れなくなっちゃうよ?」


「サンタさんお家に帰れなくなっちゃうの?」


「そうだよ。ナナちゃんの家も分からなくなっちゃうよ? いいの?」



 帰れないのは困ると首を横に振ると、彼はウィンクをして口の端を上げて「良い子」と笑う。


 パンダのぬいぐるみを白クマと取り替え、すっかり上機嫌になった私を見て彼は安堵した表情を見せる。


 空飛ぶソリで夜空を駆け抜け部屋に着く頃には、うとうとする私をベッドまで運んで布団を掛けてくれた。



「来年はちゃんと寝てるんだよ?」


「うん! そしたらまたサンタさん来てくれる?」


「もちろん。また来年も来るよ。おやすみ、いい夢を」



 それが彼との初めての出会いだ。



「今なら間違いなく迷わすために星の一つや二つ採ってしまうのに……」



 それで家に帰れず彼と二人で迷子になるなら本望だ。


 こんなことを考え純粋無垢のままでいられなくなったのはいつからだろう。