フィンの膝の間に入り足の遅いトナカイが引くソリで、家に送ってもらっているとフィンが首を傾げて聞く。
「そういえば、あの手紙ってなんだったの? 『いまから、し』って自殺でもするのかと思って焦ったんだけど」
「違うよ! フィンに会いたいのにどうして自殺するの? あれは、『いまから、いく!』って書くつもりだったの」
とても焦って書いた上にペンのインクが途中で切れてしまって、いの左側で終わってしまったのだ。
でも、フィンが焦った顔を少し見てみたかった気もする。
「紛らわしい……でも、そんなに俺に会いたかったんだ?」
からかうように言われて私の顔は熱くなる。そんなの言わなくても分かってるくせに、フィンは意地悪だ。
「そんな意地悪なフィンは見えない」
そういってフィンの顔を下から伺うと、困ったような悲しい顔を見せられ私が慌ててしまう。
ほんの冗談のつもりだったのに――
「えっと見えてるよ! 嘘だからね!」
「俺も意地悪なナナの声は聞こえない」
私を見つめてにっこり笑うとギュッと抱きしめてソリの向きを変える。
「聞こえるようになるまで、遠回りして帰ろ!」
「き、聞こえてるでしょ!?」
「全然! まだ帰してあげないよ」
素直に喜べないけど嬉しい。のんびりと走るソリは夜空が白くなり、星が薄くなるころに私の家に到着した。
幸せにフワフワした足取りでベッドに向かって、フィンに掛け布団を掛けてもらう。
「あっ、これを置いていかなきゃ」
フィンは私が返した銀の笛とペンをポケットから取り出して私に渡す。
「不安になったら見つけに来るんでしょう? それに、手紙もまた書いてくれるよね?」
「そうだけど……フィンもでしょ?」
一方通行はやっぱり寂しい。不安げに聞くとフィンは笑顔で頷いて、私のおでこにキスを落とす。
「またね……いい夢をナナ」
「うん。また来年……」
そういって窓辺に歩いていくフィンの背中を見送るうちに、瞼が重くなり眠ってしまう。
とても幸せな夢を見ながら来年のクリスマスを待つ。
終わり