「待ってるんじゃないのかい? 真実を見るのは怖いが、それに目を瞑ってしまっては笑顔もみえないよ」



 俺が彼女に言ったこと。成長に目を瞑るなと偉そうに言ったが、俺が怖がってたんだ。



「今から行ってくる。ブリクセン借りるよ」


「それんだが……誰に呼ばれたのか、ソリを引いて飛び出して行ったんだよ」


「誰だよ! 肝心な時に……」



 苛立つ俺の横をフワフワと見慣れた黒い文字が横切って暖炉の上に置いた便箋に着地する。


 慌てて便箋の文字を確認した。


『いまから、し……』


 いつもと違う書き殴った文字は途中で文章を終えている。
 今からなんだろう? し――死ぬ?



「まさか! そんなに思いつめてるわけない……たぶん」



 ナナの泣き顔が頭をよぎる。きっと俺を待って今年も泣いてるだろう。姿が見えなくなるとかそれ以前に、ナナと永遠に会えなくなるなんて考えたくもない。


 嫌な考えに手に持った便箋が震える。



「大丈夫かフィン? なんの知らせだい?」


「わ、わかんない……とにかく急いで行かないと」



 開けっ放しのドアから外に出ると、目の前で雪が盛大に舞い、視界が真っ白になった。