「ナナ、さようなら……」
窓の外にはブリクセンが引くソリがすでに止まっていて、フィンは飛び乗ると稲妻のように夜空をソリで駆け抜けて行ってしまった。
いつもなら、絶対に私を笑顔にしてから帰るのに。
「ずるいよ……何も言ってくれなかった」
ボロボロと泣いて絶望に顔を下に向けると、何か光るものが足元に落ちている。涙を拭きながら屈んでみると
――銀の笛。
これはソリを呼ぶ笛だ。これを吹けばフィンを呼び戻せる。今なら間に合うかもしれないと躊躇うことなく銀の笛を吹く。
「なんでよ……私じゃ駄目なの?」
何度、息を吹き込んでも夜空に笛の音は響かない。私はまた涙を流し、目が腫れて頭が痛くなってきたころにやっと涙が枯れた。
ベッドに腰掛けて窓の外を見るとうっすらと太陽が顔を覗かせはじめている。
「まだ、諦めないんだから!」
決意を固めるように一人、太陽に向かって叫ぶ。まだ、手紙を書くペンもある。それに、きっとこの銀の笛は大切なものだから取りにくるに違いない。
私は銀の笛を首から下げ、片時も離さないことにした。そして手紙も変わらず毎日、書き続けた。
――返事は一度もなかったけど
「あんな別れかた絶対に認めない。告白の返事だってもらってない! 今年は逃がさない!」
首から下げた銀の笛を取り出して夜空に白い息を広げた。
