窓の外にソリを引いたトナカイが急停車する。特別なトナカイだと言っていたけど、ブルブルと震えていて病気?



「凄いだろ! ブリクセンだ。稲妻のように足が速いから、プレゼント配りも今年は早かっただろ?」


「なんか……具合悪そうだよ」



 全く感激しない私に彼は不満そうに唇を尖らせ、ブリクセンと呼ばれたトナカイを撫でながら溜息をつく。


 感激しないのは仕方がないと思う。トナカイと聞いたら赤い鼻しか浮かばない。震えるトナカイなんて聞いたことないもの。



「ブリクセンは寒さに弱いんだよ」


「えっ?! トナカイなのに?」



 驚く私にブリクセンがギロリと睨む。何も言わないけど、大きな体に角がちょっと怖い。


 私は震えるトナカイにいいものがあると、部屋のクローゼットに走りマフラーを取り出して見せる。



「噛まない?」



 震えるブリクセンを見ながら彼に聞くと、大丈夫だと私の背中を押す。私は持っていたマフラーを恐る恐るブリクセンの首に結んだ。


 ブリクセンはジッと私を見て鼻先をすり寄せる。怖さが吹き飛び私はふわふわの胸に抱きつく。



「よかったなブリクセン。これで寒くないな」



 この年、私はトナカイのブリクセンと仲良くなった。ソリに乗せてもらい稲妻のように空の散歩を楽しんだ。


 だが、帰り際に彼は意味深な言葉を残した。



「来年はどうかな……」


「何が?」


「なんでもないよ。またね! いい夢を!」



 あの時は分からなかったけど、今なら分かる。悲しそうに笑って帰っていく姿の意味を。



「ちゃんと話してくれないから泣くんじゃない! 馬鹿サンタ!」



 私はポケットに入っていたペンを握りしめて叫んだ。