紫雨は、もとから困った人を放っとけない性格だった。
例えば、いじめられている子がいたら、いじめてる子から助けてあげるような、
正義感の強い子だ。
だからこそ、恥ずかしいとか思うよりも先に、
「あの、傘、使いますか?」
と、口走っていた。
右手に持っていた傘を差し出すと、男は「えっ」とした表情で驚いている。
そりゃあ、見知らぬ女子高生に急に話しかけられたらびっくりするであろう。
図々しいことしちゃったかな。
でも絶対この人困ってる。
傘無くて困ってる。
傘の色は無地の水色だし、男の人が持っていても別におかしくないよね。
あれこれ頭の中で考えていると、
「え、使ってもいいの?」
と、返事が帰ってきた。
「はい。どうぞ」
「君の傘は…」
「私2本もってるんで、大丈夫です」
ほら。と、スクールバッグから折りたたみ傘を取って見せた。
折りたたみ傘は何かあった時のために、常に鞄に入れるようにしている。