あの日、雨と傘と君と


「全然臭くないよ。むしろ良い匂い」


ありがとね、と、彼はスン、とハンカチに軽く鼻を揺らす。


「紫雨ちゃんと同じ匂いだね」


「えっ…。」

ドキッ。


『紫雨ちゃんと同じ匂いだね』


それって私の匂いかいでるってこと?


どう捉えたらいいのだろうか。

反応に少し困り、ただ顔を赤らめたまま紫雨はその場で硬直している。


「って、俺なんか変態臭いね」


へへっと笑う高杉さんに私は必死のフォロー。


「同じ洗剤なんで、そりゃあ同じ匂いですよ!」


違うんです。


変態と思って引いたわけじゃないんです。


ただいちいちドキッとしてしまっただけです、ごめんなさい。



心の中は言葉とは裏腹に焦りでいっぱいだった。