あの日、雨と傘と君と


「大丈夫?」


「いや、あの、すいません!」


体が密着しているのに気付き紫雨は慌てて体を離す。 


私はこんなにドキドキしてるのに、軽く「ははは」と笑っているのは、やっぱり大人の余裕ってやつですか?


ただでさえ恋愛経験の少ない私にとって、

こんな至近距離は死亡寸前だった。


ドキドキと胸の鼓動が収まらないまま、


昨日保護したハンカチを渡した。


「もしかして洗濯してくれた?」


たたみ方もキレー。すげー、女子力。と彼は興奮している。


女子力なんて、今日限定です、なんてね。


「臭かったらすいません…。」


ほんとは昨日、洗濯するかしないか30分ほど悩んだ末、


なんども洗剤の匂いを確認して洗濯し、


しっかりアイロンをかけて、



小さなハンカチに何度も何度もたたみ直しを繰り返したというのは、


恥ずかしいから絶対言わない。