あの日、雨と傘と君と


          ✽


「紫雨ー。カラオケいこー」


帰りのHRも終わり、ぞろぞろと人が帰って行く時だった。


私に腕を絡ませながら親友である咲奈が誘う。   


くるんと巻いた髪の毛、


ちゃっかりしている萌え袖、


しっかりと自然に上を向いている長いまつ毛。


典型的な女子の咲奈から


ふわりと女の子らしいいい香りが漂った。



「ごめんね。今日は用事があるの」


高杉さんに会いに行く(正式に言えば落し物を届けに行く)なんてことは言わない。


咲奈に言ったら、きっと一人で盛り上がってあーだこーだうるさいような気がしたから。


「用事ってなによー。最近紫雨あたしと全然遊んでくれないよねー」

つまんない。と、咲奈はほっぺたをぷくっと膨らます。


「ごめんね、また今度遊ぼ?」


顔の前で両手を重ね、精一杯謝ると、
 

しょーがないなと咲奈は笑った。


ごめんね咲奈。


いつかちゃんと、話すから。


そして私は時間に余裕があるのにも関わらず、全速力で駅へ駅へと向かった。