あの日、雨と傘と君と


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ー結局持って帰ってきてしまった。


紫雨は部屋の机にハンカチと携帯を並べ、交互に見つめていた。


高杉さんのハンカチ。


そのまま走って追いかけるか、


落ちたところの端に置いておくか悩んだ挙句。


走っても間に合わないし、端に置くのは危険だと判断して、


そのまま持って帰ってきてしまったのだ。



「…電話してみよう。」


駅からの帰り道に『高杉さん』に変更した名前を電話帳から探す。


『た』と検索して出てきたものの、なかなか発信ボタンを押せない。


画面ギリギリのところまで人差し指がいって…。


引っ込んでしまう。


もう、私のチキン。あほ。ビビリ。