その日は雨が降っていた。
急な雨だった。
タクシー乗り場はいつもに増して行列だ。
改札を出て、駅の階段を降りた紫雨(しう)は、傘を広げた。
『夕方から夜にかけて雨が降るでしょう』
朝のニュースで、美人な女子アナが言ってた。
天気予報見といて良かった。
ほっと肩をなでおろし、歩き出そうとして時ー。
丁度隣りにいた男の人に目がいった。
長身で、スラッとした、スキニーパンツが良く似合う大学生ほどの男で、
自分の右手につけてある時計と雨空を交互に見て、大きなため息をしている。
ー急いでいるのかな?傘忘れちゃったのかな?
なぜだかその男をほっとけなかった。
絶対あの人、困ってる。