「綾ちゃん・・・・・・?」
そう言ってベッド沿いに来たのは、武田先生だった。
「汗、すごいよ。
そろそろ痛み止めが切れてきたでしょ?
我慢しなくていいんだよ。」
「・・・・・・大丈夫です。」
私の顔をタオルで優しく拭きながら、聞いてくる武田先生。
すぐにナースコールで、痛み止めの指示をする。
「痛みの中でも、術後の傷の痛みだけじゃなくて、傷が膿んでることもあるから、痛いときは必ず言うんだよ。」
頭に手を置いて、言い聞かすように話す武田先生。
「嫌だよ・・・・・・。」
「えっ?」
驚いた顔の武田先生……。
どうして?どうして……。
「なんで?
なんで勝手に手術したりしたのっ!?」
自分でも驚くほど出た大きな声……。
あれ……。私、なんでお母さんじゃなくて、武田先生に当たってるの?
よく分からない。
武田先生のことを医師以上に、何か私に近いものを感じられたのか、お母さんにも言えなかった言葉を放っていた。
「綾ちゃん、それしか方法がなかったんだよ。」
心なしか、武田先生の顔色があまり良くなかった。
それしか方法がない?
それなら……それなら……
「移植してまで生きたくないっ!!!
もうイヤッ!!!」
痛い・・・・・・!!!
少し動いたたけで、全身に激痛が走る。
「綾ちゃん、そんなこと言わないで。」
武田先生の悲しそうな顔、久しぶりに見たよ。
昔、私が治療が嫌で、お母さんに強く当たったとき。
あの時、武田先生の診察室で、ふと先生の顔を見ると、今と同じような悲しい顔してた。
あれから・・・・・・、あの時の武田先生に悲しい顔をさせないようにって、嫌な治療も耐えてきたのに。
また、同じ顔をさせちゃった。
「綾ちゃん、傷に良くないから、少し寝よう。」
もう武田先生の顔を見れない。
武田先生と反対を向いた。
涙が止まらなかった。