そこにいた


~服部綾子様~





僕は、あなたの主治医を今日でやめることにします。






明日、あなたの健診を控え、この手紙を書いています。







本当ならあなたが完治するまで、僕はあなたの主治医をしたいと思っていました。








以前、あなたのお母様が、私があなたの主治医を自ら希望してなったという内容のことをあなたに話されていました。








それは事実です。







僕は1年程前に、あなたが武田先生とよく病院の中庭を散歩している様子を見たことがありました。









診察も武田先生のそばで診ていたこともあります。







でもあなたは、医者である武田先生を前にしても、弱音を吐くことなく、治療を受けていました。







弱音を吐かず、強い子だと思っていたのですが、本当は本音が言えず、周りを気にして痛くても痛いと言えていないのだと分かりました。






どうにかして、そんなあなたを救いたくて、武田先生に主治医を買って出たのです。






そして、武田先生にあなたがよく訪れているという屋上へ行き、声をかけたのです。







ですが、あなたと過ごす時間は、経てば経つほどあなたに興味を持ってしまい、時には医者という自分を見失い、本心であなたを叱ってしまったこともありました。






医者であるのに、患者さんに対して主治医を自ら降りるなんて、本当にあってはいけないことです。





ですが、この先あなたを他の患者さんと同様に扱うことができないと思いました。






あなたが退院してから、あなたに対する気持ちもどんどん膨らんできました。





主治医を降りる代わり、私はあなたに自分の気持ちを伝えたいと思います。






あなたのことが、好きです。






付き合いたいとか、あなたが私をどう思っているとか、そういうことを聞きたいのではありません。






ただ、自分の気持ちを伝えたくて手紙を書きました。






勝手な真似をして、あなたを混乱させてしまうことでしょう。






ですが、私は、どうしてもあなたに気持ちを伝えたかったのです。





最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。





               ~各務 亮~