店の片付けを終えて、スタッフ専用の更衣室に戻った。


「今夜は本当にごめんなさい。アタシのせいでレッスン切り上げられちゃって……」


樹は深々と頭を下げ、里奈さんに心を込めてお詫びする。


あぁ見えて、里奈さんは美容師という仕事に対してすごく真剣だ。


「そうだね……せっかくの機会が台無し」


里奈さんの言うことに返す言葉も無い。


「でも、今夜は許してあげる」


「ホント……?」


「気になる彼とこれからデートなの。店長には悪いけど今夜だけはラッキー」


里奈さんは上機嫌にピースサインをしてみせた。


その表情を見て、樹の肩の荷がスッと軽くなる。


「ただし、私が参加する予定だったコンパに代わりに出てくれる?」


「コ、コンパですか?」


「月末にあるんだけど、ほら……私って今は彼に夢中だからさ」


里奈さんの言い方はまるで恋する中学生のよう。


樹は悩んだ。


彼女に迷惑をかけた上、特定の恋人もいない自分にこれを断る権利は無いように思えて。