「百合……行……なよ……」


樹の耳に確かに聞こえた女性の名前。


彼は紳士で博愛主義。


女性に対して言えば、分け隔てなく優しい人。


必要ならハグだってキスだってするかもしれない。


でも、百合さんはきっと特別なんだ。


あんな切ない声で懇願するんだもん。


本当は昨夜会った時に言いたかったんだと思う。



アタシの所為で言えなかったのかな……。



だとしたら、アタシの恋は誰も幸せになれないんじゃないか。



樹は百合さんから受け取った招待状をバッグから取り出した。


仮に、大和さんが彼女に対する想いを告げたとしてもそれが叶う可能性は低い。


彼女はもうすぐ結婚するのだから。


不発弾みたいな想いを抱えて生きていくのは多分辛い。



そんな想いをアタシ自身がさせてしまっているのだとしたら……。