こんな人気の無い所にいきなり引っ張って連れて来られて、司さんじゃなかったらとっくに大声上げて暴れてますよ。
花束を小脇に抱えたままの彼は、また大きな溜息を吐き、額を手で抑えた。
言うなれば「駄目だこりゃ」というポーズだ。
何が駄目なんだよう!
「……分かった。あのさ、橘さん。よく見てて」
彼は心なししんなりとした様子で、コートの内ポケットを探っている。
小さなケースを取り出し、中から出したのは、……眼鏡?
こんな時でも職業病がまろび出る私は、自然にその眼鏡に眼差しが吸い寄せられた。
スタンダードな黒縁のセルフレーム。
スマートな横長の四角いスクエアタイプ。
何の変哲もないシンプルなデザインだけど、テンプルに特徴的なシルバーの小さな細工が嵌まってる。
あれ、この眼鏡って確か。

