新月の輝くとき

男は、鬼の首を背負ってた。

巷では〝酒呑童子〟と呼ばれている鬼のものである。

真紅の血が滴り落ち続けるそれは、男の白装束に紅い染みをつくっていた。

男女は時代を感じさせる薄汚れたのれんの前を通りかかった。

赤い提灯がほのかな灯りで、のれんの文字を浮かび上がらせる。

〝らーめん〟

「清宮、ラーメンだって。入ろうよぉ」

女は、男の返事も聞かずにズカズカとのれんをくぐる。

「神崎、ちょっと待て。持ってきてんのかよ、財布?そしてこの背中のブツはどうすんだよ?」

焦りの混じった声で男が続く。

「私、味噌ラーメンね!」

女の生き生きとした声は、夜道にまで聞こえていた。