新月の輝くとき


何よ、この映画……

初っ端から、ヒロインが強烈女なんですけど……

恵には、こんな破廉恥なもの見ちゃ駄目って伝えておこう。

私達の真ん前で、早々に、繰り広げられる〝愛〟に、わざとらしく咳払いをして、ツツゥと目を逸らす。

〝見ちゃいけないもの〟を見てしまった気分……

私は、隣の清宮に小声で囁いた。

「清宮、学生には、ハード過ぎな…」

途中で、口をつぐむ。

幸せそうに、大イビキをかく清宮が、目に入ったからだ。

この破廉恥映画に、私を誘ったのは、清宮よね。

どうして、清宮は、一人だけ夢の国に旅立っているのかしら。

他の観客にも、迷惑よね?

よって、私が、清宮を少々痛めつけたとして、天照大御神様も、快くお許しになるに違いないわ。

だって、そうあるべきだもの。

自論に納得した私は、静かにカウントダウンを始める。

三、二、一……

きっかり三秒後、私の拳は、見事な軌道で、清宮の腹に叩き込まれた。

グハッと少年漫画にありがちな効果音。

「何すんだ、神崎テメェ!」

「映画館では、私語は、慎みましょうね?」

私は、小悪魔な笑顔でニヘッと笑いながら、清宮のつま先を踏みつける。

静かな叫び声が、隣から聞こえる。

数十秒後、驚異の回復を遂げた清宮が、私に話しかけてきた。

「で、映画は?おぅおぅ、お熱くキス交わしてんじゃねぇか。終盤?」

「いいえ、始まったばかりよ。」

私は、ギロリと清宮を睨みつける。

「最近の映画は、少々キツすぎるんだな。少女漫画原作だし、若い男女が軽く恋愛ごっこするだけかと思ってた。」

清宮が頭を抱え、深い溜息を吐いて、あからさまに〝期待外れだ〟とでも言いたげに振る舞っている。

それとは裏腹に、その顔にいやらしい笑みが浮かんでいることを、私は、見逃さない。

「溜息吐いてる割には、嬉しそうね。」

清宮は、スクリーン、私は、バターポップコーンをより細かく噛み砕くことに、全意識を集中させたのだった。

「ったく、男子高校生ってヤツは。」

私は、小さく呟くと、バターポップコーンを、口に放り込んだ。

「ねぇ、清宮、映画終わったら、食事に付き合ってよ。」