牡丹の言葉通り、彼女の身体は、辺りの色に溶け出していた。

「一つ、最後に聞いてもいいですか、明石朱正さんを愛したことを後悔していますか?」

私は、最も気になっていた事を牡丹にたずねた。

「あなたは、勘違いしているみたいですね。私は彼を愛したことを後悔したことなんて一度もないんですよ」

牡丹が私に笑いかける。

その時、強い風が私と牡丹の間を吹き抜け、私は、思わず目を瞑った。

目を開くと、変わらない山の風景が広がっていた。

その中に、牡丹は、いなかった。

そして、牡丹の立っていた場所には、深紅の花弁が落ちていた。

「そういうものなんですね、恋愛って」

風で乱れた髪に指先を通して整えながら、一人で呟いた。