「〝妖刀 新月〟でその悪行妖狐を斬るつもりですか?」

「えぇ」

私は、牡丹に短く頷く。

牡丹は、鋭い眼光を灯した瞳を細め、私の顔を覗き込んだ。

「〝妖刀 新月〟は、妖のみを斬る刀です。〝悪〟しか斬ることは出来ません。〝善〟を斬った時の代償は、大きいですよ」

「そうですか、構いません」

「神崎小夜、あなたは〝恐怖〟を感じないのですか?」

牡丹は、少し驚いたような表情を浮かべた。

「さぁ、どうなんでしょうね。私にも、分かりませんね、不思議ですけど」

私は、首を捻って考える。

はぁ、と息を吐き出した牡丹が、言った。

「分かりました。三十秒です、それ以上は〝妖刀 新月〟に触れることは、許しません」

「一分くらい、いいんじゃないですか?」

私の軽口に、牡丹が私の右足を容赦なく踏みつけ、恐ろしい微笑みを浮かべた。

牡丹は、明石朱正の事となると、途端に凶暴化する女性らしい。

「駄目です、私の大切な〝妖刀 新月〟ですよ?あなたに触れさせるだけでも、感謝すべきですよ…あら、実体は、あまり持たないみたいです」