それから、彼は、〝武士〟の収入だけでは、食っていけず、副業に〝研ぎ師〟を兼業していた。

牡丹は、規則正しく響く刀と砥石が擦れ合う彼の仕事音をも愛していた。

彼女は、よく彼の隣で調子のはずれた歌を唄った。

朱正もそんな彼女を愛していた。

質素な倹約生活は、依然として変わらなかったが、彼の顔には、いつも優しい妻を想う微笑みが浮かんでいた。

しかし、幸せな時間は、そう長くは続かないものである。

ある日、彼が買い出しに町に下りている間に、役人が牡丹を連れて出ていった。

〝将軍様、直々のご命令である〟

角ばった字で残されたその置き手紙に朱正は、泣き崩れるしかなかった。