「お嬢ちゃん、こんな所にいたのかい?女の子一人で夜遅くに山奥を歩くのは、危険だよ」

背後からの声に振り返ると、天狗の老人がしかめ面で立っていた。

「すみません」

「だが、この星が無性に見たくなる気持ちは、わかるがな」

天狗の老人は、そう言って苦笑すると、夜空を見上げる。

「じゃ、〝妖刀 新月〟の昔話をしようかね」

話終えると天狗の老人は、こちらを見てやはり微笑みを浮かべていた。

「本当のこというと、お嬢ちゃんは、死んじゃいないよ」

「何となく、気づいてましたよ」

私も微笑んだ。

「明日の朝、ちゃんと帰るんだよ。清宮の坊主が心配するからな」

「心配なんてしてないと思いますけど、そうですね、帰ります」

「寂しくなるな」

本当に哀しそうに笑う老人のその表情に少し驚き、私は、言った。

「また、星、見に来ますよ」

「しがない老人に会いに来てくれるのかい。優しい子だね、お嬢ちゃん」

天狗の老人が愉快な笑い声を上げた。