「ほら、早く乗れよ。」

そう言って、清宮が手で促すのは、二輪自動車、通称バイクだった。

私は、恐る恐る聞く。

「あの、清宮くん?免許の方は?」

「持ってるにきまってんだろ!お前も少しは、俺のこと信用しろよ。」

清宮が大きなため息を吐き、私にヘルメットを投げる。

私は、清宮に笑いかけて軽口をたたく。

「安全運転でお願いね。まだ若いし、お陀仏になりたくないもの。」

バイクに軽快に揺らされる私の頬を冷たい二月の風が掠める。

私は、引っかかっていることをたずねた。

「清宮、今回の討伐の目的は?」

「……。」

何も言わない清宮に焦れた私は、清宮の肩を揺する。

「ねぇ、清宮…」

清宮が重そうな口をゆっくりと開いた。

「酒呑童子の時の山火事。親父たちは、あれを山天狗の仕業と見ている。正義とされる陰陽道に刃向かう妖は裁く、それが習わしだ。」

「でも、あれは…結城の仕業でしょう?」

「結城をあの場で逃したのは、俺達が勝手にした事だ。結城のやった事を親父たちは、知らない。それに、逃した事が知れれば、後が厄介だ。」

諭すように語る清宮に、私は、強く反論する。

「正義である陰陽道が、罪なき妖を裁く事が許されるはずないわ。」

「だったら、どうするんだ?」

私には、何も答えられなかった。

そんな自分が悔しくて強く噛み締めた唇は、鉄の味がした。