物思いにふけっている背後で、乱暴に教室のドアが開けられた。

音に振り返ると、清宮だった。

途端に興味を喪失した私は、黒板の方を向き直し、清宮に言う。

「そんなに慌ててどうしたの?あと、クラス間違ってるからね。」

「おい、神崎っ!とぼけてないで、早く来い。」

清宮は、私の腕を引っ掴むとズルズル引きずっていく。

太ももに感じる摩擦が痛い。

「清宮、止まって。摩擦熱の存在忘れてない?ここは〝物理〟の理想空間じゃないのよ?痛い痛い痛い…」

騒ぐ私を一睨みした清宮は、声潜めて、それでも口調に苛立ちを含ませて言う。

「お前、昨日の三家会合で〝山天狗討伐〟が決まったの忘れたのか?」

「…え?」

そんな話、聞いた記憶が全く無い。

顔を上げて戸惑いを浮かべる私に、清宮は、合点がいったらしい。

「あ、そうか。お前、昨日、会合に欠席したんだったな。何してたんだ?おまけに午前一時ごろに彷徨いてるし。」

「……。」

いえ、あんたの挑発にまんまとのったおかげで血まみれで気を失ってました。

「とにかく、決まったんだ。はやく、来い。」

清宮がほんの少しだけ腕を引く力を強めた。