そして、劇〝牛若丸と弁慶〟の幕があがった。

ズンチャズンチャと太鼓の音が鳴り響くたびにセリフが耳から漏れていくのを感じていた。

空っぽの頭を思い、絶望に満ち溢れた私の目は、学生でいっぱいいっぱい体育館の中に美人版神崎小夜の姿を見つけた。

忘れてしまったものを本番で無理やり思い出すことが不可能に近いことは、歴史のテストで学んでいる。

泣いてもわめいても仕方がないかと開き直った私は、思いつくままに言葉をならべてその場を取り繕う。

美人版神崎小夜は冷や汗をダラダラ流しているようで黒髪が頬に張り付いている。

「お主の刀で千本目。この弁慶、お主に勝負を申し込もう。」